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切るか、切らないか

秋は運動会やスポーツイベントが盛んになる季節です。この時期、整形外科でよくみられるケガの一つにアキレス腱断裂があります。普段あまり運動をしていない中高年の方が、運動会で久しぶりに全力疾走してアキレス腱を切ってしまった、という話を聞いたことがあると思います。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ、人体で最も太く強い腱です。走る、跳ぶといった動作で、バネのような役割を果たす重要な組織です。断裂した瞬間は「後ろから蹴られた」「何かが当たった」と感じることが多く、周囲の人にも聞こえるほど大きな音がすることもあります。アキレス腱が断裂すると、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ腱の連続性が失われます。通常、うつぶせになった状態でふくらはぎを握ると足首が底屈しますが、アキレス腱が断裂していると、この動きが消失します。これをトンプソンテストと呼び、診断の重要な手がかりになります。

アキレス腱断裂の治療には「保存療法」と「手術療法」の2つがあります。保存療法は、手術をせずに腱の自然治癒を促す方法です。まず足首をつま先が下を向く位置で固定し、断裂した腱の両端を近づけた状態にします。その後、専用の装具を使用して徐々に足首の角度を戻しながら、体重をかける練習や関節を動かすリハビリテーションを進めます。装具は一般的に8〜10週間程度使用しますが、近年では早期から荷重歩行を開始する治療法も普及しています。ただし、腱が十分に修復されるまでは、足首の動きや運動に一定の制限が必要です。

一方、手術療法では、断裂したアキレス腱の両端を糸で縫い合わせます。皮膚を切開して腱を直接確認しながら縫合する方法と、小さな切開から特殊な器具を用いて縫合する低侵襲手術があります。手術は再断裂の危険性を低く抑えられる反面、傷の感染や治癒不良、神経障害などの合併症が問題となります。また、手術後も装具を使用し、段階的なリハビリテーションを行う必要があります。

治療法を選択するうえで重要なのが、スポーツ復帰までの期間と再断裂の危険性です。特にスポーツ選手にとって、競技復帰までにどれくらいの時間がかかるのかは大きな問題です。では、手術をした方が早く復帰できるのでしょうか。実は、手術療法が保存療法よりも早期に競技復帰できるという明確な根拠はありません。どちらの治療法でも競技復帰には半年程度が一つの目安となりますが、競技種目や求められる運動能力によっては、さらに長い期間が必要になることもあります。手術をしたからといって、必ずしも早く競技に復帰できるわけではないのです。

もう一つ重要なのが再断裂の危険性です。2019年に発表された約1万6000人を対象とした研究では、再断裂率は保存療法で3.9%、手術療法で2.3%という結果でした。一方、再断裂以外の合併症は保存療法で1.6%、手術療法で4.9%と、手術療法の方が少し多い結果でした。さらに、早期から関節を動かすリハビリテーションを行った研究に限ると、再断裂率に統計学的な有意差は認められませんでした。ただし、2022年に発表された別の大規模研究では、再断裂率は保存療法で6.2%、手術療法で0.6%と、手術療法の方が明らかに低い結果でした。また治療から1年後の身体機能や患者自身による評価には、治療法による明確な差は認められませんでした。

現在、一般的な急性アキレス腱断裂に対して、すべての患者さんに手術が必要というわけではありません。若い人やスポーツ選手であっても、保存療法は十分に治療の選択肢となります。手術には再断裂の危険性を低く抑える利点がありますが、合併症の危険性も伴います。大切なのは、それぞれの利点と欠点を理解し、患者さんの年齢や運動習慣、生活環境、断裂の状態に応じて適切な治療法を選択することです。

図:アキレス腱保存治療用の装具

Myhrvold SB, et al. (2022). Nonoperative or Surgical Treatment of Acute Achilles’ Tendon Rupture. N Engl J Med. 386:1409–1420. DOI: 10.1056/NEJMoa2108447
Ochen Y, et al. (2019). Operative treatment versus nonoperative treatment of Achilles tendon ruptures: systematic review and meta-analysis. BMJ. 364:k5120. DOI: 10.1136/bmj.k5120
Willits K, et al. (2010). Operative versus nonoperative treatment of acute Achilles tendon ruptures: a multicenter randomized trial using accelerated functional rehabilitation. J Bone Joint Surg Am. 92:2767–2775. DOI: 10.2106/JBJS.I.01401

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▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。