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犬の首輪

成長期のスポーツ選手に多く見られる腰痛の原因に、腰椎分離症ようついぶんりしょうというケガがあります。これは腰の骨「腰椎ようつい」に生じる疲労骨折で、サッカーや野球、陸上競技、バレーボールなどあらゆるスポーツで起こります。特に腰を反らす・身体をひねるといった動作の多い競技で起こりやすい障害です。


腰椎分離症は第4、第5腰椎に起こりやすく、椎弓峡部ついきゅうきょうぶと呼ばれる後方の細く弓の形をした部分に生じます。ジャンプやスイング、キック動作などの繰り返しで腰椎に伸展・回旋ストレスが加わると、ここに目に見えない小さなキズが生じ、ストレスが蓄積することによってやがて疲労骨折が発症します。姿勢が悪く、体幹筋力が不十分であったり、股関節の可動域が少なく太ももの筋肉が硬く柔軟性が低下している場合に起こりやすく、未治療のままスポーツを継続すると、その後もストレスにさらされた骨折部は正常な組織に戻れなくなり、「完全に分離した」状態になってしまいます1)。腰椎分離症は進行の程度によって初期、進行期、分離期の3つの病期に分けられ、病期が進むほど骨折部の治癒(骨癒合こつゆごう)が得られなくなります。


腰椎分離症の症状は、運動時の腰痛です。特に身体を後方斜めに倒しながら回旋させたときに痛みが増悪することが特徴です。また診断をする際に単純レントゲン検査が行われますが、腰椎を斜め方向から撮影したレントゲン写真では、椎弓部分はスコッチテリアという犬の姿に見え、疲労骨折が起こるとこの犬が首輪をしているように映ることから「スコッチテリアサイン(Scotty dog sign)」と呼ばれ、腰椎分離症の特徴的な所見として診断されます。

図1:スコッチテリア

しかし、この所見が確認できるのはすでに疲労骨折が進んだ状態であり、分離症の初期や進行期ではこの所見が映らないことがほとんど。そこで、分離症を早期に診断するためにMRIが極めて重要な役割を果たします。MRIでは骨折線が入る前段階の骨にストレスがかかっている状態(骨髄浮腫こつずいふしゅ)を描出できるため、この段階で治療を開始できれば腰椎分離症の進行を防ぎ、運動制限や体幹装具を用いた保存療法を行うことで骨が癒合する確率を高めることができます。初期の段階で治療が行われた場合には、90%以上の症例で骨癒合が得られます2)。治療には、体幹の伸展・回旋を制限するための少し硬いコルセットを付けて、約3か月間、運動制限と再発予防のためのリハビリテーションを行います。

一方で、適切な治療が行われても骨癒合が得られないことがあります。進行期や分離期で治療が開始された場合には、骨癒合率は50%以下と非常に低く3)、3か月間治療をしたにもかかわらず骨癒合が得られなかった、また腰痛が再発した、というケースもあります。その場合に、その後の治療継続やスポーツ再開時期はどうすればよいかという疑問が残ります。

2022年に発表されたある論文によると、10~19歳の思春期アスリート201例に3か月間の保存療法を行ったところ、骨癒合率は約50%にとどまった一方で、98%が競技復帰できたと報告されており4)、骨が完全に癒合していなくてもほとんどの選手が痛みなく競技に戻れることが明らかになっています。この事実は「腰椎分離症の治療=骨癒合」という単純な図式ではないことを示しているのかもしれず、骨癒合が得られなくとも腰痛が改善し、競技へ復帰することは十分に可能なのです。

重要なのは、症状の改善と再発予防を行いながら、選手が安心して競技を続けられる環境を整えることです。腰椎分離症の治療の意義は骨を癒合させることだけにとどまらず、体幹筋群の強化、股関節の柔軟性獲得と運動動作の修正、競技復帰後の負荷管理、栄養指導など、包括的なアプローチによってスポーツへ復帰させることが大切だと考えています。骨癒合が得られていないからといってむやみやたらに長い期間安静にする必要はないのです。

スポーツに励む若い世代にとって腰痛は決して珍しいものではありませんが、青春時代は短く、腰痛に耐えながら過ごすにはあまりに惜しい時間です。腰椎分離症を早期に診断し、適切に治療できれば一日も早くフィールドに戻り全力で競技に打ち込むことができるのです。

図2:腰椎分離症のレントゲン写真 左:進行期 右:分離期


1) Spondylolysis: a critical review. Standaert CJ, Herring SA. Br J Sports Med. 2000 Dec;34(6):415-22.

2)Conservative Treatment for Bony Healing in Pediatric Lumbar Spondylolysis. Sakai T, Tezuka F, Yamashita K, Takata Y, Higashino K, Nagamachi A, Sairyo K.Spine (Phila Pa 1976).
2017 Jun 15;42(12): E716-E720.

3)Conservative treatment for pediatric lumbar spondylolysis to achievebone healing using a hard brace: what type and how long? : Clinical article. Sairyo K, Sakai T, Yasui N, Dezawa A.J Neurosurg Spine. 2012 Jun;16(6):610-4.

4)Management of lumbar spondylolysis in the adolescent athlete: a review of over 200 cases. Choi JH, Ochoa JK, Lubinus A, Timon S, Lee YP, Bhatia NN.Spine J. 2022 Oct;22(10):1628-1633.

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▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。