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衝撃的

疲労(ひろう)骨折(こっせつ)は、オーバーユース(使い過ぎ)が原因で生じるケガです。アスリートが高いパフォーマンスを発揮するためにはそれ相応の強い負荷を自分の身体に与えなければならず、繰り返す運動負荷によって骨には小さなキズが生じます。わずかなキズであれば痛みを感じることもなく休養と栄養摂取によって自然修復するのですが、日々のトレーニングで過度な負荷がかかり続けると自然修復よりも骨へのダメージが上回ってしまい、徐々に骨のキズは大きくなって、やがて耐えがたい痛みとともに疲労骨折が発症します。疲労骨折は運動負荷のかかりやすい部位に起こり、身体を支える下肢、特に足部に多く発生します。そして治療には長期間を要し、再発を繰り返す場合もあるためスポーツ復帰に時間がかかり、いわゆる「難治性(なんちせい)」のケガとしてアスリートを悩ませます。

サッカーやラグビー、バスケットのような切り返し動作が多いスポーツでは、第5中足骨に疲労骨折が生じます。これは足部の代表的な難治性疲労骨折で、1902年にJones(ジョーンズ)博士が自分自身の骨折も含めて報告したことからJones(ジョーンズ)骨折と呼ばれています。

Jones骨折の治療は、スポーツ活動を中止して手術治療を行うことが一般的ですが、近年手術を行わずとも骨癒合を目指せる治療法として集束型(しゅうそくがた)体外(たいがい)衝撃波(しょうげきは)治療(ちりょう)(FSWT : Focused Shock Wave Therapy)が注目されています。FSWTは、高エネルギーの衝撃波を集中的に患部にあてることで血流改善や組織修復を促す効果があり、本来もっている人間の自然治癒力を高めることによってケガから回復させることができます。

図1:集束型体外衝撃波治療器 BTL社 BTL6000Focus

衝撃波を照射することで生じる体内メカニズムも基礎研究で明らかになっていて、FSWTは除痛、炎症の軽減、血管新生、骨形成の促進、成長因子の放出といった効果をもたらします。このため整形外科では特に難治性なんちせいの腱障害や疲労骨折の治療に応用され、多くのスポーツ選手もこの治療を取り入れています。

Jones骨折に対するFSWT治療はすでに多くの治療成績が報告されていて、手術と同等、もしくは手術よりも早くスポーツ復帰ができることが確認されています1)。FSWTは非侵襲的であり、手術のような切開や感染といったリスクを伴う治療ではないため、アスリートにとって有効な治療法であることは間違いありません。

当院ではFSWTを導入して疲労骨折をはじめ様々な難治性スポーツ障害の治療に用いています。実際の治療では、超音波エコーで患部を確認してから皮膚にマーキングして患部へ衝撃波を照射します。治療時間はわずか10分程度、痛みも強く感じない程度なので苦痛もありません。照射は週1回、計3〜5回行います。Jones骨折に対する治療は、完全骨折から2週間は患部を保護して、その後にFSWTを開始します。治療後は荷重制限や運動制限は行わず、痛みに応じてスポーツも許可しています。FSWTによって痛みが軽減し、スポーツ活動を制限せずとも徐々に骨癒合が進んでいくので、治療に長い時間をかけたくないスポーツ選手にとってよい治療の選択肢になるはずです。FSWTの臨床研究が進めば、Jones骨折の治療法が大きく変わるのではないかと考えています。

※自費診療になります

1) Shockwave Treatment vs Surgery for Proximal Fifth Metatarsal Stress Fractures in Soccer Players: A Pilot Study.Ramon S, Lucenteforte G, Alentorn-Geli E, Steinbacher G, Unzurrunzaga R, Álvarez-Díaz P, Barastegui D, Grossi S, Sala E, Martinez-De la Torre A, Mangano GRA, Cuscó X, Rius M, Ferré-Aniorte A, Cugat R.Foot Ankle Int. 2023 Dec;44(12):1256-1265. doi: 10.1177/10711007231199094. Epub 2023 Oct 31.PMID: 37905784

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▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。