ハラミ
焼肉で一番好きな部位はどこでしょうか?カルビやロース、タン、ハラミ……。焼肉はどれも美味しく、スポーツ選手にも大人気の料理です。私は特にハラミが好きで、焼肉に行くと必ず注文します。ハラミは牛の横隔膜という部位から取れる肉の一部をさしますが、今回はこの横隔膜についてのお話です。
横隔膜は、主に呼吸を担う筋肉として知られていますが、実は手や足を動かす筋肉と同じようにスポーツ活動で使う「運動器」としての機能があることはあまり知られていません。また、スポーツ選手の健康維持やパフォーマンスにおいても欠かせない筋肉であり、近年では横隔膜のトレーニングを積極的に取り入れ、正しい呼吸を通じて身体機能を改善し、ケガの予防やパフォーマンス向上を目指す取り組みが注目されています。
横隔膜は、胸とお腹を分けるドーム状の筋肉です(図)。体幹部分は横隔膜によって胸腔と腹腔に隔てられ、それぞれに心臓や肺、消化器官といった重要な臓器が入っています。横隔膜が収縮すると、その形状が平坦化し腹腔側へ下がっていき、胸腔が広がることで肺に空気が取り込まれます。
呼吸は、横隔膜と肋骨の間にある肋間筋の働きにより胸郭が膨らんだり縮んだりすることで行われています。人は1日に約2万回の呼吸をしています。起きている間も寝ている間も絶えず呼吸は行われていて、呼吸は自律神経に調整されるため横隔膜は無意識下でも休むことなく働き続ける、働き者の筋肉なのです。
また横隔膜は呼吸筋としての役割だけでなく、スポーツ活動中の体幹安定性を支える骨格筋としての働きも担っています。横隔膜の後方は腰椎(第1~第3腰椎)に付着しており、横隔膜の収縮によって腹腔内圧が変化すると同時に、腰椎が引っ張られ、腹横筋や腹斜筋といったいわゆる腹部の体幹筋も連動します。この一連の動きによって腹圧コントロールが行われ、体幹を安定させることができるのです。正しい呼吸は、胸部と腹部が同時に動く「胸腹式呼吸」なので、横隔膜が正しく機能することによって体幹の安定性はさらに高まります。正しい呼吸はスポーツ時の動作を支えるとても重要な要素なのです。
しかし、最近の研究では、多くのスポーツ選手で横隔膜が正しく機能していない可能性が指摘されています。小学生からセミプロレベルの競技アスリート1,933人を対象とした研究によると、アスリートの呼吸パターンを調べたところ約90%に呼吸パターンの異常が見つかり、特に中学生では93.7%、小学生では91.2%で正常な呼吸パターンが行われていなかったと報告されています1)呼吸パターンの異常は腹圧コントロールが不十分となり、体幹の安定性が損なわれるだけでなく、パフォーマンスの低下やスポーツ障害の原因となる可能性があります。さらに横隔膜の収縮が不十分であることは、呼吸自体が他の筋肉によって代償されている可能性があり、慢性的な肩こりや腰痛の原因にもなり得ます。
横隔膜の機能を高めるためには、胸腹式呼吸を日常生活に取り入れることが効果的です。片手を胸、もう片方の手をお腹に置き、大きく深呼吸をしてみてください。吸うときに3秒、吐くときに7秒、10秒間かけてゆっくりと深呼吸を行うことで横隔膜が徐々に鍛えられていきます。また息を吸う際に胸とお腹が同時に膨らむ感覚を意識することが大切です。横隔膜の機能を理解し、日々の呼吸に少し意識を向けることで競技力が大きく向上する可能性があります。
1)Point Prevalence of the Biomechanical Dimension of Dysfunctional Breathing Patterns Among Competitive Athletes.Shimozawa Y, Kurihara T, Kusagawa Y, Hori M, et al.J Strength Cond Res. 2023 Feb 1;37(2):270-276.
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