役割
スポーツ動作は、身体の様々な関節や筋肉が連動することで成り立っています。これを運動連鎖といいますが、四肢や体幹の関節にはそれぞれ役割があり、正しく機能していないとやがて痛みが生じるようになり、思わぬケガに悩まされることがあります。「膝が痛い」とか「腰が重い」といった症状は、痛みを感じる部位に問題があるだけでなく、他の関節や筋肉が正しく機能していないことによって生じる場合も少なくありません。
人間の身体は、構造的に全く動かない部分とよく動く部分があります。たとえば、骨はとても硬い組織ですからほとんど動くことはありません。それに対して骨と骨を連結する関節は、一定の可動域をもって常に動きます。硬い部分と柔らかい部分は必ず交互に並んでいて、柔らかい部分が効率よく動くためには硬い部分が常に安定している必要があるのです。スポーツを行う場合、身体には安定することで機能する部分と柔軟に動くことによって機能する部分があり、この「安定性」と「可動性」という2つの異なる要素が互いにバランスを保ちながら全身の関節や筋肉が1つのユニットとして機能することで理想的な運動連鎖が生まれるのです。
ジョイント・バイ・ジョイント理論(Joint by Joint Theory:JBJT)という考え方があります。これは関節を「Mobility関節:可動する関節」と「Stability関節:安定する関節」に分け、それぞれの関節が役割に応じて協調しながら機能することが最も効率的な運動連鎖をもたらすという考え方です 1)。この理論では、可動する関節と安定する関節は必ず交互に存在していて(図)、動作が行われるときに可動性が求められる関節はより大きく、柔らかく、安定性が求められる関節はより安定していることが重要であるとされています。胸椎や股関節、足関節は可動性をもって機能し、同時に肩甲骨や腰椎、骨盤などの体幹部や膝関節、足部は安定して機能することが必要なのです。
たとえば、走る、跳ぶ、投げるといった動作を考えてみたとき、股関節や胸椎のような柔らかく動くこと(可動性)が求められる関節がスムーズに動いていないと、動作に必要な可動域が狭まり、隣接する安定関節である膝や腰に過度な負荷が生じます。一方で、腰や肩甲骨など動きすぎないこと(安定性)が求められる関節が、ぐらぐらと不安定だと手足の力を効率よく伝えることができず、隣接関節する可動関節への代償動作が多くなります。オスグッド病や腰椎分離症といった成長期スポーツ障害の発症原因は、このJBJTによって十分説明することができます。よく関節が柔らかいとか、柔軟性が足りないなんて表現が用いられますが、スポーツ活動中の関節や筋肉はどれも柔らかければよいというわけではないのです。
この理論をもとに、ケガから復帰するためのリハビリテーションやトレーニングメニューを考えることで、非常に効率よく身体の機能を取り戻し、パフォーマンスを改善させることができます。今年はへび年。へびのようにしなやかな身体よりも、関節ごとの役割を理解して、それぞれに必要な機能を高めながら効率的でスムーズな動きを獲得することが大切ですね。
1)https://www.otpbooks.com/expanding-on-the-joint-by-joint-approach-by-gray-cook-part-1-of-3
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