スタッフブログ

リンゴの木

私たちのクリニックには、医療施設としては珍しい広い人工芝のフィールドがあります。この人工芝フィールドはリハビリ施設に併設されていて、スポーツ選手がケガや手術から競技へ復帰する過程で行われるアスレチックリハビリテーションやトレーニングの場として活用されています。早期競技復帰を希望するスポーツ選手に対して、理学療法士やトレーナーの管理下で安全に負担をかけながらトレーニングを進めることができ、フットサルコート1面が取れる屋根付きの大きなフィールドであるため、走る、蹴る、投げるといった運動動作も確認できます。プロスポーツ選手だけでなく一般の学生やスポーツ愛好家の方に対しても、スポーツ復帰までの一連のアプローチを同様に提供し、治療からスポーツ復帰まで、選手のニーズに合わせて途切れなく一つの施設で提供できることが我々の強みと言えます。

また人工芝フィールドでは、クリニックのスタッフが選手のメディカルチェックやフィジカルチェック、動作分析などを行い、様々なデータを収集して、日々スポーツ医学の研究に励んでいます。診療時間外には一般解放されていて、クリニックの患者様以外の方も施設を利用することができます。現在は3つの団体が定期利用しており毎週サッカースクールを開催していますが、そのほかにも保育園のお遊戯や体操教室、人気YouTubeのイベント、地域スポーツクラブの交流イベントなどにも利用されています。

この施設はクラウドファンディングで資金の一部を募り、私たちの新しい取り組みや施設建設に共感してくださった長野県内外のたくさんの方々の思いを乗せて、クリニックの新しい形として誕生しました。医療現場での知見を活かしながら、スポーツ医学の研究や教育、地域スポーツの発展にも貢献する新しい医療モデルを目指しています。

このフィールドをつくるきっかけは、私が勤務医時代にスポーツ医として感じていた問題点を解決することにありました。医療施設の中には、安全に運動を行える十分なスペースがありません。病院にそんなものは必要ないと思う人もいるかもしれませんが、スポーツ医として診療していると「腰痛や膝の痛みの予防のために、先生には運動しなさいと言われたけど何をしたらいいのかわからない」という患者さんの声、「具体的に運動指導をしたい」とか、「いますぐ動作確認をしたいけれど、十分なスペースがない」という医療者側の声一それぞれのニーズがありながら、それらを解決できる施設はまだ存在していないことに気づきました。治療とスポーツ現場の間を埋めることができれば、多くの患者のニーズに応えることが必ずできると考えたのです。

また、2020年より始まったコロナ過で経験した出来事も大きく影響しました。当時、感染拡大防止のために学校や公共施設が利用できなくなり、子どもたちはスポーツを楽しむ場所を一斉に失いました。松本市内には公共施設はたくさんありますが私設のフィールドはほとんどなく、医師であり同時にサッカー指導にも関わってきた自分が、将来の地域や子どもたちのために何かできることはないかと考えたことも、人工芝フィールド建設への意欲を駆り立てました。「たとえば明日地球が滅びようとも、今日私はリンゴの木を植える。」という言葉があります。

今思えば、コロナ過で社会の動きが止まるなかでも、私は常に動き続けていたように思います。不安や混乱が広がる時期だからこそ、行動を制限するのではなく、あえて未来に向けて考え、できることをやり続けることが、地域や人々の健康を守るために私が選んだ医療のかたちだったのかもしれません。医療は診療室の中で完結するものでなく、私たちの人工芝フィールドには、ケガの治療を終えた選手が再びボールを蹴る姿もあれば、健康づくりのために汗を流す地域の方々の笑顔もあります。その光景こそ、私が植えたリンゴの木が少しずつ芽吹いていく姿なのかもしれません。11月は、ちょうどリンゴの収穫の季節です。松本の空気もすっかり冷え込み、農園の木々には真っ赤な実がたわわに揺れています。

クリニックは5年目を迎え、地域のスポーツクリニックとして皆様の健康支援とスポーツ選手の競技復帰、そしてたくさんのチームや地域のサポートに取り組んでまいりました。私たちはこれからも、“人を支える”という医療の原点を大切に、選手一人ひとりが安心して挑戦を続けられるよう、地域のスポーツとともに歩んでいきます。

写真:当院の人工芝フィールド「オルソニオ」

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▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。