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自然治癒

スポーツ選手がケガをしたとき、選手やコーチ、保護者の方から「元通りになるまでどれくらいかかりますか」とよく質問されます。ケガに対して最も多く聞かれる質問です。スポーツ選手にとって重要なことは、診断名や治療の方針よりも、復帰までどのくらいの時間が必要なのかということ。

人間には自然治癒力があり、ケガをすると、身体のなかで損傷した部分を治すために様々な反応が起こります。組織がダメージを受けてから正常に回復するまでの時間は器官や部位、損傷の程度、年齢などにより異なりますが、ケガの修復はどの組織もおおよそ同じ過程をたどり、以下の3つのフェーズに分けられます。

1.炎症期(受傷直後~7日間)

ケガをすると直後に痛みが生じます。赤く腫れ上がり(腫脹しゅちょう発赤ほっせき)、熱をもち(熱感ねっかん)、内出血を伴うこともあります。そして痛みで動かすことができなくなります(機能障害きのうしょうがい)。これらは「炎症えんしょう」と呼ばれる状態で、周囲の血管が拡張して血小板や白血球が反応し、身体に組織修復の合図を送ります。炎症は48~72時間くらいをピークに数日間続きます。このフェーズでは、患部を保護し、圧迫、挙上によって腫れを最小限に抑え、痛みが強い場合には内服薬で痛みを緩和させます。一般的にはスポーツ活動は休止しますが、どうしてもスポーツを継続したい場合には、痛みの悪化などスポーツを継続することによって生じる問題を十分理解して、判断する必要があります。

2.増殖期(4日~24日)

増殖期では、損傷部位が徐々に修復され、新しい組織が形成され始めます。傷んだ細胞や血腫は好中球やマクロファージなどの免疫細胞によって除去され、その後に線維芽細胞せんいがさいぼうと呼ばれる細胞が活性化され、新しい組織が入リ込むための「足場」が作られていきます。正常な組織を構築していくための準備段階で、まだ十分な強度や機能は回復していないために、このフェーズでは過度な負荷を与えることはできません。患部の状態を確認しながら、物理療法や関節可動訓練などのリハビリを行い、最適な負荷を与えながら組織修復を促していきます。軽度のケガであれば、テーピング等の外固定を併用してスポーツに復帰する場合もあります。

3.成熟期(21日~2年)

柔らかく未熟な組織から、さらに正常な組識へと修復が進み、強度も増して十分な機能が回復する時期です。増殖期で形成された足場にコラーゲンや細胞が入り込んできて、ばらばらだった線維も徐々に再構築され正常な組織へと成熟していきます。このフェーズは部位や器官によって大きく異なり、十分な強度が回復されるまでに数週間から数ヵ月、部位によっては数年続くこともあります。皮膚や筋肉のような柔らかい組織は短特間で成熟するのに対し、関節を支持する靭帯では数週間、身体を支える骨では数ヵ月以上を要します。(骨の場合はリモデリング期と呼びます) このフェーズになると固定や患部の保護は行わず、自体重での筋トレなどさらに強度の高い負荷を与えながら、有酸素運動を積極的に行って患部の血流を促し、スポーツ活動を再開するためのトレーニングを行っていきます。


この3つのフェーズを理解して適切な治療やリハビリを行うことで、人間の自然治癒力を妨げずに早期のスポーツ復帰が可能となります。ただし、ケガによっては自然治癒が期待できない場合もあり、重度のケガや、変形を伴うケガには手術が必要なこともあります。ケガをしたらまずは専門医の意見を聞くことが大切です。


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▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。