鉄
「鉄は熱いうちに打て」ということわざがあります。鉄は硬い金属ですが、熱して柔らかいうちに叩くとより強く鍛えられ、形を変えることができます。このことから「柔軟な気持ちをもった若いうちに心身を鍛えるべき」とか、「物事は適切なタイミングで一気に取り組んだほうがよい」といった意味で用いられます。
さて、今回はスポーツ選手にとって極めて重要な栄養素である「鉄分」についてお話します。人の身体には成人で約3gの鉄分が含まれていて、主に赤血球の中にあるヘモグロビンというたんぱく質を構成しています。ヘモグロビンは酸素を運搬する役割を担い、血液の流れにのって全身の筋肉や臓器へ酸素を供給しています。体内の鉄分が不足してくると赤血球を作ることができなくなるため、やがて貧血となります。これを「鉄欠乏性貧血」といいます。貧血になると、疲れやすく、すぐに息切れしてしまう、立ち眩みや倦怠感(だるさ)などの症状が出るため、鉄不足に伴う貧血はスポーツ活動に大きく影響し、特に持久系スポーツでは思うようにパフォーマンスが上がらず、スポーツを継続することが困難となります。
アスリートは一般の人に比べて鉄の必要量が多く、スポーツ活動中に生じる様々な変化によっても貧血が生じます。一つは「Foot Strike Hemolysis:フットストライク・ヘモリシス」という現象です。
これは、ランニングやジャンプなどの衝撃に伴い足裏の毛細血管が圧迫され、赤血球が破壊されることで生じる貧血です。運動後にたまに血尿がでることもあります。また発汗によっても鉄は排出されるため、暑い時期や、発汗量が多いアスリートほど鉄不足に陥りやすく、特に長距離ランナーやサッカーなど長く走る競技では貧血が生じる傾向にあります。さらに女性アスリートの場合は月経に伴う出血も加わり、鉄欠乏性貧血のリスクはさらに高まります。

鉄分は体内で作られることはないため、鉄不足を補うためには食事で摂る必要があります。鉄分には、ヘム鉄といってたんぱく質と結合した鉄分と、たんぱく質と結合していない非ヘム鉄の2種類があり、吸収率の高いヘム鉄を意識的に摂取することが大切です。赤身の肉やレバー、魚介類(特にカツオやマグロ)などの動物性食品はヘム鉄が豊富で、ほうれん草や豆類など植物性食品では、鉄分が含まれているものの非ヘム鉄で吸収が悪いため、ビタミンCを含む食品(柑橘類や緑黄色野菜)と一緒に摂ることで吸収率を高めることができます。
そしてもう一つ重要なのが、鉄分の吸収に関わるヘプシジン(Hepcidin)というホルモンの働きです。ヘプシジンは体内の鉄の吸収を調整する役割があり、このホルモンが多いと腸から鉄の吸収が抑制され、逆に少ないとたくさん吸収されることがわかっています。そしてこのヘプシジンの分泌量は運動によって増加するため、激しい運動をすると一時的にヘプシジンが増加し、運動直後に鉄分を摂取しても十分に吸収されない可能性があるのです。このため鉄分の摂取はトレーニング直後ではなく、数時間後に摂取したほうが効率よく吸収できます。スポーツ選手の鉄分不足は意外に多く、「鉄は熱いうちに打て」ということわざの通り、鉄分補給はタイミングがとても重要です。
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