出られない??
今年はサッカーワールドカップイヤーです。6月11日には、いよいよ世界最高峰の舞台であるワールドカップが開幕します。先日の日本代表メンバーの発表では、これまで日本代表の中心選手としてチームを支えてきた南野選手と三笘選手が選出されませんでした。理由はいずれもケガ。スポーツとケガは切っても切り離せない関係にあり、予防医学が進歩した現在でもケガなくプレーし続けることは容易ではありません。トップアスリートであっても、ケガによって大舞台を逃してしまうこともあるのです。そして、ケガの内容によって競技復帰までの道のりは大きく異なります。
南野選手が受傷したのは、ひざ前十字靭帯損傷です。このケガは、スポーツ外傷の中でも復帰まで長期間を要する代表的なケガの一つです。前十字靱帯は膝関節の中に存在し、脛骨が前方へずれる動きや、ひざの回旋を制御する重要な役割を担っています。この靭帯は一度切れると自然治癒は難しく、未治療のままではひざの不安定感が残ってしまいます。靭帯が切れたままプレーを続けると、突然ひざが「ガクッ」と抜けるような感覚が出現することがあり(これを「膝崩れ」といいます)、サッカーやバスケットボールのように、急停止や切り返し動作を繰り返す競技では、ひざに大きな負担がかかるため、競技復帰を目指す場合には自身の腱を利用して靱帯を作り直す「靱帯再建術」が選択されることが多く、スポーツ復帰には一般的に半年から9か月程度のリハビリを要します。
一方、三笘選手のケガはハムストリングスの筋損傷です。ハムストリングスは太ももの後面にある大きな筋肉で、走る、加速する、止まるといったランニング動作で重要な働きをしています。ランニング中、足をついた瞬間に発症することが多く、サッカー選手で最も頻度の高いケガです。筋損傷は下肢に発症することがほとんどで、ハムストリングスに最も多く、次いで大腿四頭筋、下腿三頭筋の順に多く発症します。筋損傷は、ほとんどが保存治療で競技復帰が可能ですが、損傷部位によって予後が大きく異なるため、超音波検査やMRI検査を用いて、正しく診断する必要があります。筋損傷は大きく3つのタイプに分類され1)、筋膜周囲の損傷、筋腱移行部の損傷、腱の損傷に分けられます。筋膜に生じるものは比較的軽症であることが多く、2週間前後で競技復帰が期待できます。筋腱移行部損傷は、損傷部位の修復を待ちながら段階的に負荷を上げる必要があり、復帰まで5週間以上を要します。さらに腱の中にまで及ぶ損傷では、腱の連続性が回復するまでに時間がかかるため競技復帰まで数カ月間を要し、また再受傷率も高く手術に至る場合もあります。また痛みだけを基準にスポーツ復帰を判断することは難しく、どのタイプも1~2週で痛みが引いて動けるようになるため、痛みが軽くなったからといって復帰を早めると、筋線維の修復が十分でない段階で筋肉に負荷がかかって再発することがあります。筋肉の圧痛、ストレッチ痛、抵抗痛、の3つが全て消失していることに加えて、画像によって正しく評価することがとても重要です。
南野選手は昨年12月の受傷後、現在復帰に向けて懸命にリハビリを行っていますが、高いパフォーマンスを発揮してプレーするにはまだまだ時間がかかること、また三笘選手は筋腱移行部あるいは腱の損傷であった可能性が考えられ、いずれの選手もワールドカップまでに完全復帰ができないと判断されたものと思われます。この2つのケガは、スポーツ現場で起こる代表的なケガで、復帰に時間がかかることや、再受傷リスクが高いことから、我々スポーツドクターも治療や競技復帰の判断に苦慮することがあります。二人が一日でも早く、ピッチに戻ってくることを祈るばかりです。
6月、日本ではインターハイ予選や中学生の総合体育大会など、学生アスリートにとって大きな節目となる大会が始まります。中には大会直前でケガをしてしまい、出場をあきらめてしまう選手もいるかもしれません。そんなときはスポーツ診療に携わるドクターに相談し、ケガの状態を正しく評価してもらうことが大切です。まず正確な診断をつけること、そして大切なのはケガを自分で理解することです。ケガの治療は単に安静にするだけではなく、プレー継続は可能か、プレーを続けた場合に何が起こる可能性があるのか、どこまでリスクを許容できるのか、自分は最後の大会をどう迎えたいのか、そこまで考えて判断する必要があります。青春の時間には期限があります。ケガを治すことは大前提ですが、大会に出場するという選手の思いを最後まで支え、競技復帰への道筋を一緒に考えることもスポーツ整形外科医の使命だと考えています。
1)British athletics muscle injury classification: a new grading system.Pollock N, James SL, Lee JC, Chakraverty R.Br J Sports Med. 2014 Sep;48(18):1347-51.

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