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慣れること

心理学に「馴化(じゅんか)」という考え方があります。馴化とは、生き物がある刺激を繰り返し受けた際に、その刺激に対する反応が徐々に見られなくなっていくという現象です。いわゆる「慣れ」のことです。
馴化は、人間だけでなく、動物や、神経をもたない原生生物、細菌、植物などにも存在すると言われていて1)、すべての生き物が、あらゆる環境の変化にも耐えられるように、生まれながらにして備わっているものと考えられます。

真夏の時期、酷暑のなかでスポーツ活動する際に最も注意しなければならないのが熱中症です。
熱中症をひきおこす要因には、高温、多湿、日差しや風などの環境に起因するものと、その日の体調や、激しい運動や長時間の作業など、その人の身体や行動に起因するものが挙げられます。
スポーツ現場では、熱中症を予防するための一つの指標として、暑さ指数(Wet Buld Globe Temperature:WBGT)が用いられます。

WBGTは「気温」、「湿度」、「日射や輻射など周辺の熱環境」の3つを取り入れて計測され、この数値が高くなればなるほど、熱中症の危険性が高まることが明らかになっていて2)、特にWBGTが28℃以上では、激しいスポーツ活動を制限したり、試合中にクーリングブレイクを取るなどして、熱中症対策を行う必要がでてきます。
逆にWBGTの数値が高くなければ、気温が高くてもスポーツ活動を継続してよいことになります(図1)。

図1 WBGTと運動に関する指針

これからの暑い時期に安全にスポーツをするためには、WBGTを計測しながら、こまめな水分とナトリウム(塩分)の補給、適度な休息と、身体を冷やすことがとても大切です。
しかし、熱中症は必ずしも暑い時期だけに起こるわけではありません。
ぽかぽかと温かくなった春の季節で、急に暑くなったりする日なんかにWBGTとは関係なく発症することがあります。理由は、急な気温の変化にまだ慣れていないからです。

熱中症対策として最も重要なことは、暑さに慣れることです。
暑さに慣れることを「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」といいます。
季節の変化によって、人間は徐々に暑さを感じ、刺激を受けることで暑熱馴化が起こるわけですが、暑い環境下でスポーツ活動を行い、徐々に活動時間と負荷をあげていくことを継続的に行えば、暑い中で運動するという刺激に対しても次第に馴化していきます。
暑熱馴化によって、体温が上昇する前に汗をかきやすくなるため体温が上昇しにくくなり、また汗に含まれるナトリウム濃度が下がるため、発汗によって失われるナトリウムの量が少なくなります3)
さらに暑熱馴化が数週間にわたると循環血液量や赤血球の数も増加するため4)、暑い環境下でスポーツ活動を行っても、身体は暑さに慣れたことによって熱中症になりにくくなるのです。

中学総体や高校インターハイなど、学生さんのスポーツイベントは真夏に行われますが、猛暑の中の試合では、体力が消耗してしまい十分なパフォーマンスを発揮できない可能性があるかもしれません。
しかし、試合が行われる環境は戦う相手も全く同じです。
猛暑の中でも最高のパフォーマンスを発揮するために、大会を見据えて暑熱馴化をしておくことは相手よりも優位に試合を進められる可能性があるのです。
朝夕の涼しい時間帯にだけトレーニングをして、日中クーラーの効いた屋内にいるよりも、普段からできるだけ屋外に出て、暑さに慣れることにもっと時間を使うことができれば、暑さも味方につけることができるかもしれません。
我々人間には馴化という本能があるのに、それを使わなければもったいないです。

1) van Duijn M. 2017 Phylogenetic origins of biological cognition: convergent patterns in the early evolution of learning. Interface Focus 7
2) 環境省 熱中症予防情報サイト
3) Michael J. Buono:Sodium ion concentration vs. sweat rate relationship in humans.,J Appl Physiol,103,990-994,2007
4) Sawka MN,: Blood volume: importance and adaptations to exercise training, environmental stresses, and trauma/sickness. Med Sci Sports Exerc , 32: 332-348,2000

▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。