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年齢

年が明けると、人は一つ年を取ります。1年は365日ですから、時間というものさしによって、人は生まれてから365日過ごすと必ず一つ年を取ると決められています。これを暦年齢といいます。年齢が変わると学年が変わり、多くのスポーツ活動は暦年齢をもとにグループ分けされ、トレーニングや試合が行われています。前号のコラムでは、育成年代の成長過程は個人差が大きく、同じ年齢でも成長のタイミングに違いがあることを理解して、個々の成長段階にあった最適なトレーニングを行うことが大切だとお伝えしましたが、暦年齢によってグループ分けされたスポーツ現場においては、それを実践することはとても難しいと思います。


時間によって決められた暦年齢に対して、身体の細胞や臓器の成長をもとに、身体の大きさや成熟度を評価して年齢を分けることがあります。これを「生物学的年齢」といいます。スポーツにおけるケガの予防のためには、この生物学的年齢に着目してトレーニングを行う機会を作る必要があります。近年、ヨーロッパのサッカークラブではこの生物学的年齢に基づいて、選手をグループ分けして試合を行うbio-banding(バイオバンディング)という取り組みが行われています1)。例えばPHVを早く迎える早熟な小学生選手と、晩熟で、まだ成長過程にある中学生選手で一つのチームを作り、同じ身体の大きさ、同じ成長段階の選手同士で大会を行うという、育成年代の新しい指導方法が試みられています。Bio-bandingの大会では、身体の大きさや体力レベルが似たもの同士で行われるため、特に晩熟の選手にとっての技術的、戦術能力が十分に発揮されますが、早熟の選手にも、身体が大きいという優位性を利用することができなくなるため、より技術的要素が重要と感じるなど、早熟、晩熟いずれの選手にも肯定的な効果が見られているようです。またbio-bandingによって身体にかかる負荷も同程度となるため、当然ケガの予防にもつながる可能性があります。Bio-bandingという考え方は、今後育成年代のケガの予防に大きな影響を与えるかもしれません。

図 標準化成長速度曲線

身体の成長過程で、神経機能が成熟し成長期を迎える前の9~12歳をゴールデンエイジといいます2)。ゴールデンエイジは標準化成長速度曲線3)のフェーズⅠに一致しますが、この時期は「即座の習得」といって短期間で様々な動作を身に着けることができる、動きづくりに最適な年齢です。この時期は、体を動かすことの楽しさを感じながら、多くのスポーツに触れて、姿勢やバランス、正しい関節運動(運動連鎖)など身体の使い方を身に着けることが大切です。この時期にケガ予防のための動作を獲得できれば、ケガに負けない身体づくりができると考えられます。

フェーズⅡでは骨の成長が著しく、成長のピークへと向かっていきますが、骨の成長に伴い筋肉の柔軟性が低下し、筋肉や腱付着部に負荷がかかりやすい時期でもあります。身長が急激に伸びる時期は傷害のリスクは高くなるため4)、この頃から練習後のストレッチやマッサージなどセルフコンディショニングを学ぶことが大切です。また筋腱付着部へ負荷のかかる筋トレはこの時期にはあまり行うべきではなく、トレーニング時間をコントロールしながら、体幹軸をより強化するために自体重を使った筋力トレーニングが有効です。

フェーズⅢになると成長のピークが過ぎ、ホルモンの影響によって筋肉量が増えてきます。ここからは筋力、パワー系のトレーニングを積極的に取り入れ、強く大きな体を作っていくことで、さらにパフォーマンスを上げることが期待できます。

またフェーズⅡ~Ⅲの時期では、身長だけでなく、心臓や肺などの内臓も大きく発達します。身長が伸びるこの時期に、スピード、持久力など多くの体力要素も同時に急伸することがわかっていて5)、心肺への負荷を与える持久力トレーニングや有酸素運動を積極的に取り入れることで、心肺機能の向上が期待できるのです。中学、高校年代になるとよく走らされるのは、ちゃんと理由があるのですね。ただし、どのフェーズであっても、動きづり、持久力、筋力すべてのトレーニングは必要で、選手の「生物学的年齢」を把握して、選手個人に対してトレーニングの内容と量、バランスをコントロールしてあげることが大切です。

1)Bio-Banding in Youth Sports: Background, Concept, and Application.
Malina RM, Cumming SP, Rogol AD, Coelho-E-Silva MJ, Figueiredo AJ, Konarski JM, Kozieł SM.Sports Med. 2019 Nov;49(11):1671-1685.

2)コーチとプレーヤーのためのサッカー医学テキスト 日本サッカー協会スポーツ医学委員会

3)浅見俊雄. ジュニア期の体力トレーニング 財団法人日本体育協会 13p

4)Maturity-associated considerations for training load, injury risk, and physical performance in youth soccer: One size does not fit all.
Towlson C, Salter J, Ade JD, Enright K, Harper LD, Page RM, Malone JJ.J Sport Health Sci. 2021 Jul;10(4):403-412.

5)The relationship between peak height velocity and physical performance in youth soccer players.Philippaerts RM, Vaeyens R, Janssens M, Van Renterghem B, Matthys D, Craen R, Bourgois J, Vrijens J, Beunen G, Malina RM.J Sports Sci. 2006 Mar;24(3):221-30.

▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。