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正しく使う

硬いボールを扱う球技や接触を伴うスポーツではケガのリスクを最小限に抑えるためにプロテクターの装着が義務付けられていることがあります。野球やソフトボールではバッターボックスに入る打者は必ずヘルメットをかぶり、キャッチャーは全身にボディプロテクターを装着します。アメリカンフットボールでは激しいタックルに耐えうるヘルメットとプロテクターをユニフォームの一部としてまとい、武道や格闘技でも様々な防具をつけて戦うことで安全に勝負を争うことができます。スポーツの歴史のなかでは、いかに選手のケガを予防して安全にプレーさせるかという議論がなされ、選手生命に関わる重大なケガから選手を守るためのルール改正が行われてきました。

サッカーでは、下腿かたいにすねあてをつけてプレーすることがルールとして決められています。シンガード(shin-guard)やレガース(leg-guards)と呼ばれる、すねの前に装着するプロテクターです。サッカー選手が試合に出場するためには、必ずソックスの中にすねあてを装着してプレーしなければなりません。これは国際サッカー連盟の公式ルールとして、どの年代のどんなレベルの試合にも必ず装着することが義務づけられています。

すねは「弁慶べんけいの泣き所」と呼ばれ、強くぶつけるととても痛く、大きなケガに発展しやすい部位です。また皮膚が薄くて血液の流れが比較的少ないため骨折や挫滅など大きなケガが発生するとなかなか治りにくく、治療に時間がかかる部位でもあります。サッカーではボールを蹴ったり奪いあう際に、選手同士がぶつかり合うことで、すねにケガが生じやすく、すねあてはこうした衝撃から下腿を守り、重大なケガを防ぐ役割を果たします。

図:すねあて

すねあての歴史は18世紀にまでさかのぼります。当時まだ厳格なルールが制定されておらず相手との接触や尖ったスパイクで強烈なタックルを受けるなどで下腿のケガが多発していました。このため選手達は自分の足を守る方法を模索するようになり、イギリスのある選手がクリケットで使用するレッグパットを小さく切って足に装着してプレーするようになりました。

はじめは周りの選手から笑われていましたが、レッグパッドを装着することで相手からタックルを受けてもケガをしなくなったため、徐々にその有効性が選手達に広まり多くの選手が装着するようになりました。パッドも小さくソックスの中に収まるようなデザインに改良されて、現在のようなすねあてになったのです。

またすねあてによって、ケガをして流血した際の感染リスクも軽減されました。すねあての着用はイタリアワールドカップが開催された1990年にルールとして義務化され、これによってサッカー選手のケガの発生は減少しました。

プロテクターの使用はケガの予防に欠かせませんが、正しく装着していなければその効果を十分に発揮できないこともあります。先日、サッカーの試合で相手選手と接触してすねを蹴られ、骨折をしてしまったという選手が来院されました。当然すねあてをして試合に出ていたのですが適切な部位に正しく着けられていなかったために重傷のケガを負ってしまったのです。プロテクターを正しく装着していなかったがための代償はとても大きいのです。

図:サッカー選手の脛骨骨幹部骨折(橙矢印:骨折線)

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▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。